※ちょっとだけR18風味です。


頑丈な檻の秘密


 …それはよくわかります。

事務所で失敗する度に先生の視線がアイシクルレイン並みに突き刺さったものだ。それでも、彼が意外と面倒見が良かったのは、響也という弟がいたせいだろうか。
 
「でも小学校の5、6年頃からかな、僕に対して妙によそよそしくなっちゃって、嫌われたんじゃないかって、随分悩んだよ。で、ある日思い切って、兄貴に聞いたんだ。
(僕が嫌いになったのか)ってね。」
 王泥喜を視てニカッと笑う。続きを聞いて欲しいと催促する表情は、まるで子供だ。
…で?と即せば、嬉しそうに続けた。
「(貴方はもう大人です。ですから、その様に応対しているのですよ)って言われた。嬉しかったね、大好きで憧れていた人から大人の扱いを受けたんだから。」

 ふいに夢から醒めた表情で、響也が笑う。
「兄貴は一体何を考えてああ言ってくれたんだろう。それとも僕は一生聞くことはないのかな、答え…。」
 難しい表情になってしまっている王泥喜を見たからだろう、響也は取り繕うようにその笑顔を向けた。スターと呼ばれ、ミリオンボーカリストと詠われた表情は綺麗に整ったものだ。
「僕としたことが、辛気くさい話題になってしまったね。」
 爽やかな表情に、王泥喜はキレた。

 どこまでいっても、響也は自分をさらけ出すつもりはないのかと思うと、カッと頭に血が上った。広くもない部屋の、柔らかくもない畳に押し倒す。ドスンと鈍い音がしたので、後頭部なり背中なりが痛かったのだろう、眉を歪めて見上げてきた響也の表情が一瞬強張った。

「おデコ…くん?」

 伺うように聞いてくる声が、僅かに怯えたその表情が、王泥喜の感情に火を付ける。返事もせず普段から大きく開いているシャツの裾に手を掛けた。
 腹部に置いた掌に、震えるようなヒクリと動く感覚があったけれども、片手を身体に這わせ、もう片方の指で釦を外し始めた。手際良くシャツを開いていけば、抗議の声もない。拘束している訳でもないのに抵抗しない響也を怪訝に思うが、揺れる碧眼が潤みを帯びているのがわかり、ああ、コイツは酔っぱらいだったのだと思い出した。
 もたもたと手を動かしても、王泥喜のシャツを掴む事さえままならない。普段だったら、シャワーを浴びたいとかムードがどうとか騒ぎ出す場面だろうにほぼ無抵抗の状態だ。それでも思い通りにならない事が悔しいのか、眉間の皺は僅かに深まる。
 崩れた表情が愛おしかった。
このまま、酷く扱ってあられもない声を上げさせたいという欲望が王泥喜の中で膨らむ。普段なら、押さえ込むはずの理性がきかない。酒のせいか、制御が効いていないのだ。
 何処か思考を置いてきたような感覚で、そんな事をするべきじゃないと(少しだけ)思いながら、身体が止まらなかった。
 あらわになった胸にキスをする。ちゅっと小さく音を立てて、何度もそれを繰り返した。 褐色の肌にある赤みはどんどん色を増していく。
「あ、そっ…ん。」
 すくぐったいのか、気持ちがいいのか、薄く開いた唇からは漏れている呼吸は速い。
「感じやすいですね。」  これは意地悪のつもりはなく言ったのだけれど、響也はそうとらなかったようだ。眉尻を上げて、睨んでくる。
「そういう言い方、嫌いだ。」
「嫌いだなんて、」
 俺は好きです。そう言い置いて、執拗にそこだけを舐め続ける。馬鹿とかなんとか、罵る言葉に明らかに艶のある言葉が混じる。舌先で感じる弾力も堅さ増して、歯をたててみたくなった。
 きつく吸い取った後に、軽く噛みつく。息を飲むタイミングで身体が強張った。それも面白くて何度か繰り返していれば、前髪をむしられた。
 流石の王泥喜も悲鳴を上げて、身体を離す。
「…っ、痛いじゃないですか、響也さん!」
「僕だって痛いよ!馬鹿!」
 上体を起こした響也の脇から腰にドロリと液体が伝う。それはそれはしつこく舐め続けた証拠だろう。胸元も、感じて固くなっているというよりは、鬱血して腫れているようにも見えた。
 潤んでいただけの瞳からは、涙が零れる。恨めしそうな表情でしゃくり上げる。
「痛いのなんか好きじゃない。なんでこんな意地悪するんだよ…。」
「俺を欲しがってくれないからですよ。」
 スルリと言葉が口をついて、王泥喜は我ながらギョッとした。そう、自分自身間違いなく酔っぱらいだ。わかっていても、言葉が止まらない。
「俺、いらないですか?」
 えっ?と唇が告げた途端、響也の頬は有り得ない程に赤くなる。
「そ、そんなこと、言ってな…。」
「そうでしょ?一緒にいたいとか言って付いてきたのに、全然そんな素振りないし。俺ばっかり、ですか?」  そう告げながら、王泥喜は再度響也を押し倒した。彷徨う視線からは眼を反らし、布越しに彼の股間を指先でなぞる。それなりの硬度を増しているのがわかり、口端が上がった。
「…でもないみたいですね。」
 言葉に詰まる相手を於いて、今度は布の上から彼自身の形に指を添えて撫で上げた。脚の付け根から先まで、ただ撫で上げる。それでも王泥喜の手の中で増していく質量が楽しくてたまらない。
「や、っ…。ちょ…。」
 言葉は全て短く、声が上擦る。でも、止められた訳でもないし、勿論欲しいいわれた訳じゃない。このまま続けていても問題ない。
 王泥喜は、こんな緩い愛撫では達する事もできないだろうなと心中思いつつもその行為を続けた。どうせだったら、とお尻の裡も布越に指でぐるぐると弄る。ビクリと太股が痙攣して、塊がドクリと波打った気がした。
「デコ…!」
 悲鳴のような声が名(認めたくないけど)を呼ぶ。この状態で良しと出来る奴なんかいない。響也も欲しくてたまらないだろうけれど、言葉がない。
 残念。
 意地の悪い事を考えながら、王泥喜は先程の行為に戻ろうとした。しかし、それは響也の手で阻まれる。ギュッと袖口を握りしめて王泥喜を見上げる。

「欲、しい、お、デコくんが欲し、い。早く…。」

 率直に言わなければ、王泥喜は何の行動も起こさないと悟ったのだろう。わかっていても、羞恥に駆られる表情が王泥喜を直撃する。
 唯一呼び方が気に入らなかったが、これは此処から先で返礼してやればいいと笑い願いに答えるべく、そして自分の欲求を満たすべく行動を開始した。



content/ next